アマチュア無線資格の相互承認
日本国籍者に、海外資格を根拠に日本の局免許を与える理由

海外運用を実行する際に便利な、いわゆる相互運用協定には、実は二種類の仕組みがあります。 ひとつが、短期滞在者などを対象として、KH0/JQ2GYUのようなスタイルで事前手続きなしに自由に運用させようというもの。 もうひとつが、主に長期滞在者を対象として、お互いの国でそれぞれの国のアマチュア無線資格を相互承認し、コールサインを発給しましょう、というものです。 日本のアマチュア無線免許制度的な視点で言えば、前者が無線局免許的な視点、後者が無線従事者資格的な視点での、それぞれの相互協定だと考えるとわかりやすいでしょう。

日本の総務省が想定している相互協定は、後者の、アマチュア無線資格の相互承認の方になります。一方、米国FCCは前者の無線局の運用許可の相互協定を採用しています。 日米間では、したがってそれぞれの前提条件が違うのですが、お互い様、ということで無理やりOKにした、とでもいうような制度運用となっています。 その結果、米国ハムが日本へ来たときは、日本ではアマチュア無線資格を承認して、日本のコールサインを発給してもらいます。 しかし、逆に日本のハムが米国へ行ったときは、日本の無線局免許状を根拠に、KH0/JQ2GYUのスタイルでの運用を手続きなしで認められてしまいます。

欧州CEPTは、こ れら2つの制度をきちんと両方持っています。 そのため、米国と欧州CEPT間は、短期滞在者向けのポータブル運用を規定したT/R 61-01だけの締結となっており、このたび日本と欧州CEPT間で締 結された相互協定はT/R 61-02、すなわちアマチュア無線資格の相互承認だけの締結となりました。

日本が制度とし て運用しているのは、このように欧州CEPTで言えばT/R 61-02となる、アマチュア無線資格の相互承認なのです。 これはつまり、日本が承認している国のアマチュア無線資格は、そのまま日本の従事者資格として読み替えますよ、という思想です。 欧州のように人の往来が自由(シェンゲン協定)な地域では、たとえばスイス人だけどフランスに居住して、フランスでアマチュア無線試験を受けて無線を楽しんでいる、というような人は少なくありません。 そのスイス人が老後、故郷のスイスに戻っても、改めてスイスの国家試験を受け直さなくてもいいですよとするために、このアマチュア無線資格の相互承認という考え方は、とても実用的、かつ必要な制度なのです。

一方米国は、米国籍の人に対して、日本で国家試験を受験して取得したアマチュア無線資格と日本コールサインではKH0/JQ2GYUの運用を認めていません。 それは、米国FCCが批准し ている相互協定は、日本などが批准している「アマチュア無線資格の相互承認」ではないからです。 米国が、欧州との相互協定でCEPT T/R61-01による、短期滞在者向けにポータ ブル運用を認めるという方だけしか締結していないことからも、理解できる話だと思います。 ですから、日米間でそうした違いが生じても致し方ありません。

米国は米国人に 日本の無線従事者資格や日本のコールサインでのポータブル運用を認めていないのに、日本は日本人に米国FCC免許でキロワット局開設を認めるのはけしから ん、という議論が(心情的には理解できますが)意味をなさないことが、これらのことからわかると思います

櫻井、JQ2GYU