欧州CEPTと日本の相互運用協定
(2016年7月3日全面改訂)
(JJ1WTL 本林氏がCEPT T/R 61-02日本語訳を作成・公開)
●欧州CEPTにおける相互運用協定には2種類あります。
(1) T/R 61-02 (長期滞在者を対象とするアマチュア無線資格の相互承認)
2014年5月末に開催されたCEPTの会合で、日本の1アマがCEPT T/R 61-02 (長期滞在者を対象とするアマチュア無線資格の相互承認)に認められることになり、T/R 61-02加盟各国のアマチュア無線最上級資格と同等とみなされることになりました。
このCEPT T/R 61-02には、欧州CEPT加盟40カ国に加え、オーストラリア、キュラソー、香港、イスラエル、ニュージーランド、南アフリカ、日本の47ヶ国が加盟しています。
http://www.erodocdb.dk/Docs/doc98/official/pdf/TR6102.PDF
(JJ1WTL 本林氏が
日本語訳を作成・公開されています。)
2016年10月12日に、総務省から告示改正の意見募集が出ました。
この原案によれば、対象国は別表第1号ですので、CEPT加盟40ヶ国42地域のみが対象で、オーストラリア、キュラソー、香港、イスラエル、ニュージーランド、南アフリカは対象外の扱いです。
ただし、オーストラリアとニュージーランドとは、日本との間にそれぞれ二国間協定がありますので、これら2ヵ国はそちらを利用できます。
そして、総務省が日本のアマチュアに対して発行する無線従事者免許の英文証明書のフォームを、英語、仏語、独語で併記された、CEPTで定めるHAREC様式のものに改訂することになるものと思われます。
これらがすべて整えば、別表第1号に記された40ヶ国42地域と日本との間で、アマチュア無線資格が相互に承認されます。
(2) T/R 61-01(短期訪問者を対象とする手続き内での相互運用を規定)
CEPT加盟国同士のアマチュア無線相互運用協定には、このアマチュア無線資格の相互承認CEPT T/R 61-02の他に、短期訪問者を対象とした相互運用を規定するCEPT T/R 61-01というものも存在します。
こちらは、90日以内であれば、M/JQ2GYUのようなスタイルで、事前の開局申請など一切の免許手続き等をすることなく、自由にアマチュア無線を運用できるという規定です。
このCEPT T/R
61-01には、欧州CEPT加盟42カ国に加え、オーストラリア、カナダ、キュラソー、イスラエル、オランダ領アンティル、ニュージーランド、ペルー、
南アフリカ、米国の51ヶ国が加盟国しています。米国は旧Advanced級とExtra級が対象で、日本とは逆にT/R
61-02には参加せず、こちらのT/R 61-01だけとなっています。
http://docdb.cept.org/Docs/doc98/official/pdf/TR6101.PDF
さらに現在、この規定にCEPT加盟各国の初級資格や米国のGeneral級も対象に含めるための検討が始まっています。
http://https://docdb.cept.org/document/1024
●T/R 61-01に日本を受け入れてもらうための課題をまとめてみます。
欧州CEPT側としては、T/R 61-01に加盟する各国が日本でも他の加盟国と同様に、たとえばJA1/M0LZPのスタイルで、事前の開局申請等の手続きなしに運用できる必要があるとしています。
“相互”運用協定なので、お互いに同等でなければ認められない、ということです。
さらに、欧州CEPT側からの突きつけられている課題は以下の通りです。
課題1 日本では移動する局と移動しない局が分かれていて、前者の出力が50Wまでしか許可にならない
・長期ソリューション案
日本のアマチュア局も含めて、アマチュア局から移動する局と移動しない局の種別をなくし、設置場所以外からの運用時には出力を50W以下にする、という但し書きでの対応とできないでしょうか。
これは、1200MHz帯の10W免許が、常置場所以外では1Wという但し書きで発行されていることが、参考となりえるのではないかと期待します。
・短期ソリューション案
外国からの短期滞在(たとえば90日以内)者がT/R
61-01をベースに運用する場合は、移動する局の50W免許を対象とし、それ以上の出力の移動しない局を望む場合は、すでに締結済みのT/R
61-02を使って、局免申請をしてもらう、という運用で逃げられないでしょうか。
課題2 日本では、コールサインを取得するための開局申請が必要で、しかも申請料がかかる
T/R 61-02で局免申請するのであれば、日本の局と同様の申請料金が発生する点は当面は目をつぶっていただけるのではないでしょうか。
問題は、T/R 61-01をベースにした短期運用の場合です。
こちらは、JA1/M0LZPの類の識別符号での運用を許可するのかどうかが、大きな関門でしょう。
これを可能とするならば、無償とすることは不可能でないかも知れません。
有償か無償か、という問題ではなく、このJA1/M0LZPの類の識別符号での運用を許可するのかどうかが、本来の課題と思われます。
しかしながら、このような運用は日本の電波法では想定外です。
これを可能にするためにどういった工夫が可能か、正直なところ、私には皆目見当がつきません。
課題3 日本では、無線局を開設する場合に、使用する無線機の登録が必要である。
これについては、2016年5月21日から施行された「海外から持ち込まれるWi-Fi端末等の利用」を前例として、同様の処置をお願いできないかと考えています。
この新制度は、訪日観光旅行者は、CEPT T/R
61-01の規定と奇しくも同じ90日以内であれば、日本の技適認定を受けていないWi-Fi端末等であっても、米国FCCや欧州CEなどといった、日本
の技術基準に相当する技術基準(国際標準)の認定を受けたものであれば、日本国内に持ち込んで使用しても良い、という大変寛容な内容となっています。
これを良き前例として、なんとかアマチュア無線機器についても同様な制度を設けていただきたいと考えています。
http://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/others/wifi/index.htm
総務省側から示された懸念事項は次の通りです。
懸念1 万一、有害な混信等が発生した際に、連絡を取る先も不明なのは困る。
対案:本来は事前申請等は一切不要なのがT/R 61-01の思想ですが、事前にJARLに簡単な連絡先等の届出をしてもらうことで、お互いの妥協を求めてはどうでしょうか。
総務省が、必要な場合はJARLに問い合わせれば連絡がとれることになっている、ということでお願いできないでしょうか。
懸念2 アマチュア局の出力は大きいため、免許不要局とは出来ない。また、日本国内の局との不平等も問題になる。
対案:まずスタートとして、短波帯と50MHz帯は50W出力までとし、144MHz/430MHz帯は5W出力までとする、という案はどうでしょうか。
日本国内の局は、CEPT諸国へ出かけた際に手続き等が不要となるため、互恵の関係です。
欧州のCEPT加盟国でも、それぞれの国では日本と同様に申請が必要となる免許制度があるのですから、不平等という考えは勘違いだと思われます。
参考資料
(1) 欧州CEPTのアマチュア無線ワーキンググループ
http://www.cept.org/ecc/groups/ecc/wg-fm/fm-radio-amateur-fg/client/introduction/
(2) 米国と欧州CEPTとの相互運用協定
米国はCEPTとの間で、短期訪問者を対象とする手続き内での相互運用を規定する T/R 61-01のみ、締結しています。
CEPTにおけるFULLのクラスと同等なのは、今は試験をしていないAdvanced級以上です。つまり、現行の試験制度ではExtra級のみで、 General級はFULLの扱いにはなりません。
日本の2アマが対象外になったのも、この判断と無関係ではなさそうです。
欧州CEPT側には特に国籍条項の類はないと言われていますが、米国側はFCCが2011年2月7日付けで発行した、
DA 11-221
という文書によって、米国FCC免許をベースにした T/R 61-01 による欧州CEPT領内でのアマチュア無線運用は、米国市民に限定しています。
このPublic Noticeが2016年9月16日付けでアップデートされ、DA 16-1048 になりました。
すなわち、米国FCC免許を有する日本国民には適用されません。
欧州 CEPT側の国によっては、特段国籍条項はないので、日本国民であっても米国FCC免許をベースにした T/R 61-01
による運用を許可するケースもありますが、米国FCC側はそれを認めていないため、DXCC上の扱いなどでトラブルが発生する可能性はありそうです。
たとえ欧州CEPT側が、米国市民権の無い日本人に対して、米国免許をベースにした運用を許可する場合も、最低限Emailで言質を取っておくことをお勧めします。
また、米国は、今回日本が締結した、CEPT T/R 61-02 (長期滞在者を対象とするアマチュア無線資格の相互承認)は締結していません。
(3) 日本の総務省が自国民に、海外資格を根拠に日本の無線局免許を与える理由
別稿で解説していますので、
こちらをご覧ください。
櫻井、JQ2GYU